泣いて心がほどけるアニメ
「これ、泣けるから絶対見て」
友人にそう勧められて、正直最初は“ファンタジーっぽいアニメかな?”くらいの軽い気持ちで再生ボタンを押しました。
ところが、数話見た頃にはその予想はいい意味で裏切られます。
ただ泣けるだけじゃなくて、心の奥にたまっていたものをそっとかき出してくれるような、静かなデトックスの時間になっていました。
最近は涙を流すことを「涙活(るいかつ)」なんて言いますが、
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、まさに“涙で心を整える時間”をくれる作品だと思っています。

まだ見たことない人にこそ、見てほしい作品です!
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はどんな物語?
物語の舞台は、戦争が終わったばかりの架空の国。
かつて「武器」として戦場にいた少女・ヴァイオレットが、戦後に「自動手記人形(人の代わりに手紙を書く職業)」として働きながら、少しずつ“人の心”と“自分の感情”を学んでいく物語です。
原作は暁佳奈さんのライトノベルで、 第5回京都アニメーション大賞小説部門をとった注目作品です。アニメ制作は、あの有名な京都アニメーション。TVシリーズ(2018年)、外伝映画(2019年)、劇場版(2020年)と続き、今も語り継がれている作品です。
…と、こう書くときれいな作品紹介で終わってしまうのですが、
この記事ではここから先、「この物語が、日常をがんばる私たちの心にどう響くのか」という視点で見ていきたいと思います。
追記として、京都アニメーションでは2019年放火されるという痛ましい事件がありました。この作品に携わった方でお亡くなりになった方もいるそうです。そういう時期を経ての作品でもありますが、その中でこの心に響く作品を作ってくださった京都アニメーションに私がいうのもなんですが、敬意を表したいです。
私がこの作品に心を持っていかれた理由
見始めた頃の私は、日々の生活にどこか余裕がなくて、
「とりあえず今日を回すこと」で精一杯で、自分の気持ちより「やるべきこと」を優先していたので、うまく言葉にできないモヤモヤだけがたまっていた時期でした。
ヴァイオレットは、最初は「感情が分からない子」として描かれます。「愛してる」という言葉の意味も分からない。
嬉しい・悲しいの感覚すら、自分の中でうまく掴めていない。
両手を戦争で失くし、自在に動く義手をつけてるので、感情のない表情と、機械式の義手に一瞬ロボットのようなイメージを持ってしまいます。
でも、手紙を書く仕事を通して、ただ言葉を伝えるのではなく、手紙は心を伝えることを知り、誰かの想いを一生懸命言葉にしようとする中で、自分の心も少しずつ目を覚ましていのです。
その姿を見ているうちに、あれ、もしかして私も、自分の本当の気持ちを置き去りにしてきたかもしれないと、ふと自分のことを振り返ってしまいました。
泣いた理由はストーリーの悲しさだけじゃなくて、
“がまんしすぎて固くなっていた自分の心”がほぐれていく感覚に、どこか覚えがあったからかもしれません。
手紙が教えてくれる、「ゆっくり伝える」という優しさ
この作品で象徴的なのが「手紙」です。
今の時代はSNSやメール、LINEなど通信手段はたくさんあるのですが、その分、その1つ1つに割り当てる時間は、たったの数秒。わざわざ紙を選び、ペンを取り、何か書くか考え、言葉を選んで書いては書き直して、封をして、切手を貼って、ポストに入れる。
ある意味「タイパ」の時代に対して、その一つひとつの動作は、正直とても“遅い”。または、人によっては「無駄」と感じてしまうかもしれないです。
でも、その“遅さ”の中にこそ、
- 相手のことを考える時間
- 自分の気持ちを見つめ直す時間
- 「本当に伝えたい言葉」だけを残す時間
があるんだと、ヴァイオレットを見ていて気づかされました。
作中には、「今この瞬間には読まれない手紙」も出てきます。
遠く離れた誰かに向けて、未来の誰かに向けて、“いつか届いてほしい思い”を書き残す場面です。
それを見たとき、「すぐに伝えなくてもいい、時間をかけるからこそのコミュニケーションもあっていいよね」
と、思えました。現在のスマホ中心の私たちの毎日に少しだけ気づきをくれるような作品です。
京アニの映像が「感情の温度」をそのまま見せてくれる
視覚的な意味でも、この作品は本当に特別です。私は専門家ではないのですが、見ていてなんでこのアニメ、風が吹くシーンだけで泣きそうになるんだろう?不思議でした。
後から制作陣のインタビューを読んで納得したのが、
夕暮れのオレンジ色が肌にそっと反射する描写
草むらの緑が、ヴァイオレットの髪や服にうっすら映り込む表現
「見えないところは敢えて描き込みすぎない」という方針など、“その場の空気”をキャラクターの体に映すように作られているという点でした。
それを知ってから見直すと、
画面の中の光や影が、ヴァイオレットの心の揺れとリンクしているのが分かります。
- 少しだけ表情が柔らかくなる回では、光もどこか柔らかい
- 苦しい回では、空気まで固く冷たく感じる
言葉で説明されなくても、映像だけで感情の温度が伝わってくる。
だからこそ、“理由は分からないけれど胸がいっぱいになる”瞬間が多いのだと思います。
泣くことは、弱さじゃなくてメンテナンスだと思えた
友人に勧められたときも、「泣けるよ〜」と言われていて、
正直なところ「え〜、そんなに泣くかな? 最近あんまり涙もろくないし…」なんて少し構えていました。
でも、実際に見始めると、静かなシーンでふっと涙腺がゆるむことの連続。
- 誰かのために書いた手紙が、ようやく相手に届く瞬間
- すれ違っていた気持ちが、言葉になってようやく抱きしめ合える瞬間
- 自分の過去をやっと受け入れて、「生きていていい」と思える瞬間
派手な演出ではなく、小さな一歩を積み重ねていくような涙なんです。
観終わったあとは、目は腫れているのに、心は妙にスッキリしていて、「よし、また明日からがんばろう」と思える不思議な感覚が残りました。「泣く=疲れているサイン」と捉えてしまいがちですが、
この作品を通して、泣くことは、心のメンテナンスなんだなと素直に思えるようになりました。



ある意味、この世界観に没入して思いっきり感動してないてほしい作品でもあります!
京アニという存在と、この作品を見返したときのこと
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を語るとき、どうしても京都アニメーションの事件のことを思い出さずにはいられません。
事件のあとに改めて見返したとき、
スクリーンの中で丁寧に紡がれるひとつひとつのカットが、ただの「きれいな画」ではなく、誰かの時間と、手と、想いの積み重ねに見えて、前よりもずっと胸に迫るものがありました。
この作品の中で描かれる「誰かの人生を、大切に受け取る」というテーマは、
制作に関わった一人ひとりの想いとも重なっているように感じます。
日常をがんばる私たちこそ、ヴァイオレットに会ってほしい
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、派手なバトルも、大きな恋愛ドラマもありません。(私は当初義手が機会だったのもあり、バトルもの?ぐらいに感じてました)
その代わりに、自分の感情がよく分からなかった人が誰かの気持ちを代弁する仕事を通して
少しずつ、“自分の心”も取り戻していくという、とても静かで、でも強い物語です。
なんだか最近、心が置いてけぼりな気がする、がんばることに慣れすぎて、泣くタイミングを失った、誰かの本音に、そっと寄り添いたい、そんな時にこそ、ぜひ出会ってほしい作品だなと思います。
ハンカチと、できればティッシュ多めで(笑)
泣き疲れて眠った翌朝、きっとすこしだけ、世界の見え方が変わっているはずです。



私もハンカチ片手にもう1周この秋にします!
- 現在はNetflixで配信中(TVシリーズ/外伝/劇場版)
- 配信状況は地域・時期により変動するため、最新情報はNetflix公式ページで確認を。



